介護施設での看取りとは?流れと施設選びのポイント・家族の心構え
介護施設での看取りを経験する家族にとって、看取りの意味や流れ、施設選びの基準は理解しにくいものです。
本記事では、「看取りとは?」という基本から、介護施設での看取りの進め方、選ぶべき施設のポイント、家族の心構えまでを解説し、安心して準備ができる知識をまとめています。
介護施設での看取りとは?
近年、介護施設で最期を迎える高齢者は増加しており、「看取り」は施設が担う重要な役割のひとつとなっています。
しかし、看取りの体制や医療支援、実際のケアの内容は施設によって大きく異なり、家族が理解するのは簡単ではありません。
看取りを正しく理解することは、「その人らしい最期」を実現する第一歩です。
看取りの流れ
高齢者が最期の時期に向かう過程は、いきなり大きな変化が訪れるのではありません。
適応期 → 安定期 → 不安期 → 終末期 → 看取り期という段階をたどりながらゆっくり進みます。
それぞれの時期で現れるサインや必要なケアが異なるため、流れを理解しておくことは、家族にとっても介護職にとっても安心につながります。
ここでは、介護施設で一般的に見られる看取りのプロセスを分かりやすく整理します。
適応期
介護施設での生活が始まり、環境やスタッフとの関係づくりが進む時期です。
この段階では身体機能や認知機能は大きく変化していないことが多く、日常生活の中で新しい環境に慣れていく期間といえます。
見守り中心のケアが多く、本人が安心して生活できるよう生活リズムの安定を図ります。
この時期に、家族で「どんな最期を迎えたいか」や「どこまでの医療を望むか」などをゆっくり話し合っておくと後の選択が少し楽になります。
安定期
生活に慣れ、体調も比較的落ち着いている時期です。
食事・排泄・睡眠のリズムが整い、施設のレクリエーションや他利用者との交流も増えます。
穏やかな心身の衰えが見られる場合がありますが、急激な変化は少なく本人らしい生活が続きます。
「今だからこそ一緒にできること」を楽しむ時間が心の支えになります。
不安期
体力や食欲が少しずつ低下し、できていたことが難しくなるなど、衰えが目に見えて進む時期です。
たとえば、「睡眠時間が増える」、「会話量が減る」、「食事量が減る」など、小さな変化が積み重なります。
本人が不安や混乱を感じやすく、声かけやスキンシップが重要になります。
この時期から、家族は延命措置・蘇生処置の希望など医療方針の確認をしておくと、終末期の判断が迷わなくなります。
終末期
身体の機能が大きく低下し、「最期の時期が近い」と判断される段階です。
食事・飲水がほとんど摂れなくなる、睡眠時間が大幅に増える、呼吸の変化、手足の冷感、脈の弱まりなど、看取り期へ向かうサインが現れます。
この時期は苦痛の緩和・姿勢調整・口腔ケアが非常に重要となります。
家族には、面会のタイミングや過ごし方を丁寧に伝え、精神面のサポートを強めます。
看取り期
人生の最終段階をゆっくり迎える時期です。
意識がほとんどなくても、触れる感覚や声は届いているとされています。
施設では、医師・看護師と連携し、苦痛の軽減や環境調整(照明・音・体位など)を行い、穏やかな時間を支えます。
「手を握る」、「声をかける」、「寄り添う」など、できることを伝え後悔のない時間を一緒につくっていきます。
ケア内容
看取りケアは、利用者が最期の時期を 苦痛なく穏やかに、その人らしく過ごせるよう支えるケアの総称です。
介護施設では、以下のような三本柱で行われます。
身体的ケア
精神的ケア
家族サポート
医療職、介護職、家族のそれぞれがチームとなり、尊厳を大切にしながら最期まで寄り添います。
看取りに関連する用語には似ているものも多く、「ターミナルケア」、「緩和ケア」、「エンゼルケア」など違いが分かりづらいと感じる方も少なくありません。
以下にそれぞれの役割と特徴を簡潔に紹介しますのでご参考になれば幸いです。
- ターミナルケア
人生の最終段階に寄り添い、身体や心のつらさをやわらげながら、残された時間をできるだけ穏やかに過ごせるよう支えるケアです。
- 緩和ケア
痛みや呼吸の苦しさなどの身体的なつらさだけでなく、不安な気持ちや生活面での負担にも寄り添い、その人らしい生活を保つためのケアです。
- エンゼルケア
ご逝去後に行われるケアであり、身体の清め、身だしなみを整え、ご家族が落ち着いてお別れできるように整える大切なプロセスです。
身体的ケア
看取り期は身体の変化が大きく、ささいな不快も負担になりやすい時間です。
- 体位変換や姿勢調整、鎮痛薬での痛みの軽減
- 呼吸ケア、口腔ケア、保湿ケア、室温・温度調整
- 入浴が難しい場合の清拭やリネン交換、スキンケア・排泄ケア全般、清潔保持
- 本人の負担にならない範囲での水分補給
- 入浴が難しい場合は清拭で体の清潔保持
また、「食べられなくなるのは自然な変化」という説明を家族へ行います。
精神的ケア
最期の時期は、心も不安定になりやすく、声かけは大きな支えになります。
・「ここにいますから、安心してくださいね」
・「痛かったら、すぐ教えてくださいね」
・「不安なことはありませんか?」
・「ご家族がそばにいらっしゃいますよ」
・「無理しなくて大丈夫ですよ」
大切なのは、本人の表情・反応を見ながら、その時に必要な寄り添いを行うことです。
家族サポート
看取りは本人だけでなく家族にとっても大きな経験です。
- 面会の調整
- プライバシーを確保
- 状況説明
- 今後の見通しの共有
- 心理的支援
家族の不安を軽くし、安心して寄り添える環境を整えます。
看取り対応の施設を選ぶポイント
介護施設での看取りを検討するとき、「どの施設を選べば安心なのか」、家族にとって大きな悩みです。
施設によって、看取り体制の整い方やスタッフの経験、医療連携のレベル、さらに生活の雰囲気まで大きく異なります。
そのため、選ぶ際には施設の種類、看取り体制の確認、職員の経験、連携、そして施設全体の生活環境の雰囲気といったポイントを押さえることが重要です。
以下では、それぞれの視点から後悔しない施設選びのポイントを詳しく解説します。
施設の種類
施設によって、看取りが可能な体制や医療対応の範囲が異なります。
主な種類は以下の通りです。
特別養護老人ホーム(特養)
長期入居型で、看取りが可能な施設も多く、医療ケアは医師や訪問看護との連携を行っている。
介護付き有料老人ホーム
医療対応が比較的手厚く、看取り体制が整っていることが多く、個室が中心でプライバシーも確保できる。
グループホーム
認知症対応が中心で、看取り対応可能な場合は施設と医療連携の確認が重要となります。
ポイントは施設の種類だけでなく、実際に「看取りに対応しているか」、「医療連携があるか」を事前に確認しましょう。
看取り体制確認
安心して任せられる施設かどうかは、看取り体制が整っているかで判断できます。
- 看取りの経験がある医師や看護師がいるか
- 24時間の体制で急変時に対応できるか
- 痛みや苦痛による緩和のケア(ターミナルケア・緩和ケア)が提供されるか
- 家族が関わるタイミングや方法の案内があるか
見学時に施設スタッフへ直接質問し、具体的な対応例や手順を聞くと安心です。
職員の経験値・連携
看取りケアはチームで行うため、スタッフの経験と医療職との連携も重要です。
- 看護師、介護士の看取り経験年数や人数
- 医師や訪問看護との連携体制
- 緊急時の判断や対応の速さ
- 家族への説明や心理的サポートの経験
経験豊富なスタッフが多く、家族への説明や相談に慣れている施設は安心です。
生活の雰囲気
看取りは単なる医療・介護だけでなく、日常生活の中で穏やかに過ごせる環境も大切です。
- 家具や照明、音など落ち着いた生活環境が整っているか
- 他利用者との交流やアクティビティの様子
- スタッフと利用者の関係性や雰囲気
- 家族が過ごしやすい面会スペースがあるか
ポイントは見学時に施設の雰囲気を実際に感じ、職員や入居者の表情をチェックしましょう。
看取りのメリット
介護施設での看取りには、医療ケアが受けられる安心感と、家族の介護負担を大きく軽減できるメリットがあります。
施設には看取りに慣れた医師や看護師が常駐、または連携しており、痛みや不安の緩和がきめ細かく行われます。
さらに、食事・排泄・体位変換などの介護をプロが担当するため、家族は身体的・精神的な負担を軽減しながら、最期の時間を落ち着いて見守ることができます。
ここでは、施設で看取りを行う具体的なメリットを詳しく解説します。
医療ケアが受けられる
介護施設での看取りでは、医療体制が整っている安心感が大きなメリットです。
医師・看護師による症状管理
利用者の痛みや呼吸の苦しさ、発熱や体調変化に応じて医師や看護師が迅速に対応します。
薬の管理や緩和ケアの実施
鎮痛薬や坐薬、緩和ケアを使った苦痛のコントロールが可能、自宅では難しいケアも施設で安心して受けられます。
急変時の対応
夜間や休日でも、医療職が対応する体制が整っている場合が多く、家族が駆けつけるまで待つ不安が軽減されます。
医療・介護の連携
訪問医療や訪問看護との連携により、体調に合わせた最適なケアを受けることができます。
介護負担の軽減
施設での看取りは、家族の身体的・精神的な負担を大きく軽減できる点も重要です。
食事、排泄、体位変換などの介護は専門職員が24時間体制でケアを行うため、家族が夜間の見守りや体位交換の負担を軽減することができます。
また、自宅での介護に比べて心身の負担が少なく、急変や体調悪化に対する不安も、施設職員がしっかりサポートを行うため、家族は安心して最期を見守ることに集中できます。
そして、施設職員から病状やケアの状況を説明することで、孤独感や不安を軽減し、心理的なサポートを受けることも可能です。
施設での看取りは、家族が休息を取れる時間の確保、また遠方からの面会や仕事との両立も可能となり、心身の負担が軽くなります。
看取りのデメリット
一方で、施設での看取りにはいくつかの注意点もあります。
看取り対応が可能な施設は限られており、すべての施設で受け入れられるわけではありません。
また、施設で提供できる医療行為には制限があるため、症状や急変時の対応範囲が家庭での医療体制とは異なります。
ここでは、施設での看取りにおける注意点を整理し解説します。
対応可能な施設の限り
看取りを実施できるかどうかは、施設の種類や医療連携の状況、職員の体制によって大きく異なります。
まず、看取りに対応するためには、医師との連携体制、看取り経験のある看護師・介護士、緊急時の判断と対応フロー、緩和ケアに対する知識・経験など、一定の基準を満たす必要があります。
しかし、これらが十分に備わっていない施設も少なくなく、「看取り対応ができない」、「状況によっては途中で受け入れ困難になる」場合もあります。
施設側の医療体制が限られていると、終末期に症状が進行した際に必要なケアが難しい、夜間の急変に十分な対応ができない、看取り計画を進めても途中で病院搬送が必要になる、といったケースが起こることも考えられます。
そのため、施設で看取りを希望する際には、「看取り対応の可否」だけでなく、「どのような条件で可能なのか」まで確認しておくことが重要です。
医療行為の限り
介護施設での看取りには、提供できる医療行為に限界があるという点を、理解しておく必要があります。
施設の多くは「生活の場」であり、医療機関ではないため、できる医療行為は法律や施設体制によって大きく制限されています。
たとえば、施設で一般的に対応できる医療ケアは以下のようなものです。
・痛み止め(鎮痛薬・貼付薬・坐薬など)の使用
・口腔ケア
・体位変換やスキンケア
・酸素投与(施設による)
・点滴の説明・管理(一部のみ対応)
一方で、人工呼吸器の管理や輸血のような高度な医療行為は対応できないケースが大半です。
また、継続的な医療処置が必要な状態では24時間体制での医師の常駐が必要なケースもあります。
このため、終末期の症状が進行し、より高度な医療ケアが必要になった場合は、施設での看取りが難しくなる場面もあります。
施設側は入居者の状態変化を見ながら、「このまま施設で看取りを続けられるのか」、「病院での医療が必要なのか」を判断するため、家族にもその方針を丁寧に説明する必要があります。
家族としては、施設でどこまでの医療行為に対応できるのか、急変時に病院搬送を行う基準は何か、可能な限り施設で最期を迎えたい場合の選択肢を事前に確認しておくと、安心して看取りの準備を進めることができます。
家族の心構え
介護施設での看取りに向き合うとき、家族にとって最も大切なのは、本人の気持ちを尊重しながら寄り添う姿勢です。
終末期には、これまで何気なく過ごしてきた時間の価値が大きく変わり、できるだけ多くの時間を一緒に過ごすことが、本人の安心感につながります。
また、体調や表情の小さな変化、不変の部分への気遣いも欠かせません。
些細な変化に気づき、伝えることでより良いケアへとつなげることができます。
さらに、看取りは家族にとっても大きな負担や悲しみを伴うため、施設職員による家族向けのグリーフケア(家族ケア)を受けながら、心の負担を軽くしていくことも大切です。
ここでは、施設で看取りに向き合う家族が、後悔なく寄り添うための心構えを詳しく解説します。
本人の気持ちを優先
看取り期のケアで最も大切なのは、本人がどのように最期の時間を過ごしたいと思っているかを尊重することです。
「どこで過ごしたいか」、「どんなことを望み、何を望まないのか」など、本人の思いは体調や精神状態によって日々変化します。
たとえば、「今日は静かに休みたい」、「家族の声を聞いていたい」、「好きな音楽で気分を落ち着けたい」、「あまり話したくない」、など本人のペースは常に揺れ動きます。
そのため、家族は「してあげたいこと」よりも「今、本人がどうありたいか」を考えながら関わることが大切です。
それは、表情、声のトーン、身体の力の入り具合など小さなサインが大きなヒントになります。
本人の気持ちを優先する姿勢は、穏やかな看取りにつながるだけでなく、家族にとっても「その時、できる限りの寄り添いをした」という深い納得感を残してくれます。
多くの時間を一緒に過ごす
看取りの時期は、家族と過ごす一瞬一瞬が本人にとっての安心や安らぎにつながります。
必ずしも会話をし続ける必要はなく、そばに座る、手を握る、同じ空間にいる、それだけでも本人は「ひとりじゃない」という大きな安心感を得られます。
特に終末期は、時間の流れ方が家族の感じるものとは異なるため、短い面会時間でも本人には深く届いていることがあります。
家族としては、可能な範囲で面会の回数を増やす、仕事帰りに短時間でも寄る、また離れて暮らす家族はビデオ通話などで声を届けるといった関わりが大きな力になります。
「たくさん話せなかった」、「何もできなかった」ではなく、「そばに寄り添えた」という事実そのものが大きなケアになります。
小さな変化、不変への気遣い
身体の変化がゆっくり進むこともあれば、突然現れることもあります。
家族が気づいた小さな変化は、スタッフにとって非常に重要な情報になります。
たとえば、「いつもより表情が強張っている」、「呼吸が浅い、または速い」、「好きだった飲み物を飲みたがらない」などの変化は、本人の「苦痛」や「疲れ」、あるいは「安らぎ」のサインでもあります。
施設職員と家族が情報を共有することで、より本人に寄り添ったケアにつながります。
また、不安定な時期ほど、状態の“変化”に目が行きがちですが、「変わらずに続いていること」も大切なサインです。
好きな音楽や香りに穏やかな表情を見せることや、家族の声を聞くと安心したように呼吸が落ち着くことなど、「変化しない反応」にも気づいておくことが心の支えになります。
家族が受けたいグリーフケア
看取りは、本人だけでなく家族にとっても大きな心の負担を伴います。
だからこそ、家族もまたケアを受ける存在であることを忘れてはいけません。
施設では、家族が抱える不安や迷いを軽くするために、以下のようなさまざまな家族のケア(グリーフケア)が行われます。
病状や今後の見通しの丁寧な説明
「何が起きているのか」、「今どんな段階なのか」を理解するだけで、家族の不安は大きく軽減されます。
気持ちの揺れに寄り添う相談対応
「この選択で良いのか」、「もっとしてあげられることはないのか」、家族が抱えがちな葛藤に職員が寄り添います。
面会調整や環境づくりのサポート
家族が最期の時間をゆっくり過ごせるよう、面会時間の柔軟な対応や部屋の整備を行います。
グリーフケアへの橋渡し
看取り後の悲しみや喪失感への支援、必要に応じて専門機関につなぐことも行います。
看取りの時期になると、家族は気づかないうちに「自分がもっと頑張らなければ」と無理を抱え込んでしまうことがあります。
しかし、実際には家族も支えられながら進んでいくことが大切です。
家族が安心して寄り添える環境が整ってこそ、本人にも穏やかな時間が訪れます。
まとめ
介護施設での看取りは、医療・介護・精神的支援が連携しながら、最期の時間を穏やかに過ごしてもらうための大切な選択肢です。
専門的なケアを受けることで、家族は「寄り添う時間」に集中できます。
一方で、看取り対応ができる施設は限られ、医療行為にも範囲があります。
だからこそ、入居前から体制や連携、雰囲気を確認しておくことが、本人らしい最期につながります。
生活の雰囲気などを確認しておくことが、本人らしい最期を支える土台になります。
そして、何より重要なのは、家族自身が無理をせず本人の気持ちに寄り添いながら、残された時間をどう過ごすかを考えることです。
大きな決断の連続に思えるかもしれませんが、看取りケアは「たった一つの正解」ではなく、「家族と本人にとって納得できるかどうか」が中心にあるケアです。
最期の道のりは決して一人では歩みません。
介護職員、看護師、医師、そして家族が、それぞれの役割で支え合いながら、「その人らしさ」を守る時間をつくっていきます。
読者の方にとって、この章が不安を少しでもやわらげ、より良い選択へ踏み出すための助けになれば幸いです。


